2012年1月26日

1/21(土)Pirates' Dialogue vol.3 レポート

1月21日(土)に行われた「Pirates' Dialogue vol.3─海賊と文学、もしくは歌と酒とめし」について、主催者の藤墳智史さんからのレポートです。

Pirates' Dialogue vol.3─海賊と文学、もしくは歌と酒とめし
2012年1月21日(土曜日) 15時〜20時(トーク・セッション「海賊と文学」:15時〜17時、パーティー「海賊の宴」:18時〜20時)
ゲスト:小笠原博毅、美馬達哉、栢木清吾(トーク・セッション司会)、鈴木慎一郎(DJ)
会場:CAP CLUB Q2

当日はあいにくの雨模様でしたが、その分、海が一段ときれいに見える中での開催となった今回の「Pirates' Dialogue vol.3」。
 
前半のトーク・セッションでは小笠原博毅さん、美馬達哉さん、栢木清吾さん(司会)をゲストに迎え、「海賊と文学」というテーマで白熱したトークが繰り広げられました。一方、トーク・セッション後のパーティー「海賊の宴」では、「海賊」にちなんで、17世紀ごろの大西洋上を行きかう船の上で食べられていた食事をできるだけ再現しようと試みた献立が振舞われ、ゲストDJの鈴木慎一郎さんがつないでいくレゲエに誰もが心踊らされるひと時となりました。

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トーク・セッション「海賊と文学」15時〜17時
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左から、小笠原さん、美馬さん、栢木さん

司会の栢木さんからゲストの紹介とこれまでの「Pirates' Dialogue」の開催実績について紹介があった後、小笠原さんがトークの口火を切ります。本来はサッカーのファン・カルチャーや人種差別の問題について研究されているという小笠原さん。お話の中で取り上げられたのは、ウィリアム・ブレイク、バイロン、ボードレール、ランボーといったロマン派の文学者たち。特に大きく取り上げられたのはブレイク、中でも「虎(The Tyger)」という名で知られる詩です。

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小笠原博毅さん

一般にはイギリスらしさを体現した作品として捉えられることが多い「虎」ですが、小笠原さんはその「虎」の均整のとれた姿よりも、力強く、コントロールできない存在であること、畏怖すべきものといった側面に着目します。この点がまさに、海賊の存在のあり方そのものではないのかとも──そのアイデアの先駆者として、近年の海賊研究に大きな影響を与えた『多頭のヒドラ(Many headed Hydra)』の著者のピーター・ラインバウとマーカス・レディカー、そしてイギリスの文化研究の先頭に立ってきたスチュアート・ホールの発言を、小笠原さんは紹介していきます。また、後期ロマン派の文学者(ボードレール、ランボー)たちに視点を移してみれば、それらの作品の特徴として、人間の中の「悪」や深さ、わからなさ、闇といったといったことがらが挙げられるわけですが、そこにもまた、「海賊」の姿との近しさ認めることができるのではないかとも小笠原さんは指摘します。
 
コントロールのできない、捉えきれない、闇に包まれた存在──海賊。彼らの存在に着目することから、史料のみに依拠するのとは違う「歴史」が見えてくると小笠原さんは述べます。近代の市民革命以前に、自由や平等を先取りしていた海賊のユートピアの逸話。あるいは、革命や事件に船員や水夫たち自身や、ヒドラのようにそこかしこに顔を出す彼らのネットワークが大きな役割を果たしていたということ。私たちが知っているものの傍らに海賊の姿を見出してみるとき、何がいったい見えてくるのか、そんな問題提起にあふれたお話となりました。
 
 
小笠原さんに続いてお話をされたのは美馬達哉さん。本業は脳科学を専門とされるお医者さんですが、フランスの哲学やバロウズなどのビートニク文学、海賊にも造詣が深く、今回、ゲストとしてお話をいただくことになりました。バロウズと海賊についてのお話ということで、スタートからエキサイトしたお話となりました。

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美馬達哉さん

バロウズその人、あるいはその作品について、美馬さんは一言で「自由」と形容します。カット・アップに代表される創作手法、あるいはその生き方。バロウズ自身はのちに学生運動の象徴的な存在として祭り上げられるようになり、当時の著名なフランスの哲学者(ジル・ドゥルーズやミシェル・フーコー)との対談も組まれるようになっていきます。
 
むろん、バロウズ自身は「自由」を先取りしていた海賊のユートピアに強く着目し、作品中の記述にもそれが現れるわけですが、その「自由」の意味、ひいては自由と結び付けられる「海賊」の意味は両義的なものだと美馬さんは述べます。海賊はそもそも公海上で略奪行為を暴れるという行為ですが、その活動単位や構成員の実態は、国籍で区切られることが多かったといいます。必ずしも「壁」を自由に乗り越えるということがいつもできていたわけではなかったのです

また、美馬さんは「コントロール[管理]社会」という言葉を、現代社会の特徴づけるキーワードとして挙げつつ、そこでは選択の自由、ルールの中での自由、結果にたどり着くまでの自由というように、「自由」の考え方が変質しているといいます。人の移動を見てもわかるように、グローバリゼーション、あるいは自由な移動とは言っても、一方では国境の壁が選択的に高くなるという状況があるわけです。「自由」の意味が変わっている中で、海賊に着目することが現在、どんな意味を持っているのか、海賊のどんな側面に着目していくのか......。難しい問いを投げかけられたお話でした。


パーティー「海賊の宴」18時〜20時
トーク・セッション後の休憩時間を経てパーティーへ。まず、後半のパーティーでの目玉の1つが「海賊料理」です。17世紀ごろの太平洋上の船中で食べられていたものを、できる限り再現してみるというのが料理のコンセプト。トーク・セッションで司会をしていただいた栢木さんに、慌ただしい中、料理長としての役割をお願いして腕をふるっていただきました。献立は、ソルトポーク、ザワークラウト、茹でポテト、ライ麦パン(フィンランドサワーライ)。どれも船上での保存を重視した料理です。これらの料理が食べられていた場所や状況、来歴についても、栢木さんからお話をいただきました。なお、栢木さんご自身は移民についての研究を普段は専門とされています。移民や船での移動に着目する中で、海賊に関心を寄せられるようになったそうです。

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左上から時計回りに、ソルトポーク、茹でポテト、ライ麦パン、ザワークラウト。

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ドリンクも好評。一押しはラムパンチ。

料理が登場した後はDJタイム。鈴木慎一郎さんの登場です。今回は海賊をテーマにしたトラックリストで、レゲエを中心に音楽をかけていただきました。鈴木さんはジャマイカをフィールドに、レゲエを中心とした音楽文化を専門とされています。

ジャマイカがイギリス(イングランド)に占領されたのは清教徒革命後のオリヴァー・クロムウェルの時代のこと(1655年)。その後、入植者や年季奉公人が送り込まれ、プランテーションが整備され、植民地としての体を成していくことになります。同時に、この時代のカリブ海は海賊の活動が最も盛んだった時期。中でもジャマイカのポートロワイヤルは海賊の活動の中心となった街でした。トークの中でも海賊の墓の話が出ましたが、ジャマイカの歴史の中には海賊の存在が深く刻み込まれています。そうしたジャマイカの歴史と海賊、そして音楽との関係については、今回は詳しく伺うことができませんでしたが、最後に鈴木さんがかけてくださったボブ・マーリーの「Redemption Song」にその糸口が見えていたように思います。

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鈴木慎一郎さん

「海賊」という観点から様々な試みをさせていただいた今回のイベント。一口に「海賊」と言ってもいろいろな取り上げ方がありますし、同時に「海賊」じたいが様々な側面をあわせ持っていることが見えてくるという機会だったと思います。捉えづらい、わかりづらい中からでも、参加者のみなさんそれぞれが海賊の面白さを見つけてくださっていれば幸いです。

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