2012年2月 2日

1/28(土)「カフェ座談会:山元彩香+宇野珂苗+小野惇貴」レポート

今回も参加者の藤墳智史さんによるレポートです。 120128zadankai_IMG_3528.jpg
去る1月29日(日)まで4階のギャラリーで開催されていた宇野珂苗さん個展「steal a glance」と山元彩香さん個展「Nous n'irons plus au bois」。出展者のおふたりと小野惇貴さん(CAP)の座談会が、1月28日(土)にCAP STUDIO Y3のカフェにて行われました。

女子学生たちが、おそらく学校の中のどこかで楽しげに触れ合う情景が印象的だった宇野さんの作品。ギャラリー内でも三方から彼女たちの集まりに囲まれているように感じられて、透明感のある作品から女の子たちの集まりが浸み出してくる、あるいはこちらが引き込まれるような、不思議な空間だと感じられた方も多かったのではないでしょうか。
あるいは、ラトビアでのワークショップで、森の中で女性たちのポートレートを撮り続けたという山元さんの作品。深い森の中、言葉でのコミュニケーションがなかなかままならない中でのモデルとの交渉とぶつかり合い。その中から一瞬現れる、人間が見せるとは予想だにできない振る舞いや姿。美しい情景の中に垣間見える人間の姿のおかしさ、不思議さが印象的な作品たち。

4階のギャラリーのいずれもで、女性をモチーフにした作品が連ねられた今回の2つの個展。個々の作品にとどまらず、ギャラリーじたいが持つテーマ、ひいては座談会での主たるテーマも「女性」に関わるものだったように思います。そんな中でまず話題となったのは、これまでのおふたりの経歴や活動歴、あるいは何を表現しようとしているのか、対象へのアプローチの仕方といったことでした。

120128zadankai_IMG_3584.jpg
ごく普通の人間が見せる「おかしさ」──山元彩香さん
もともとは洋画、中でも油絵を描くことからキャリアをスタートさせたという山元さん。平面で何を表現すれば良いのか、何を考えていけば良いのかがわからなかったその時期に、製作の方向性を変えるきっかけとなったのが、アナ・メンディエタやレベッカ・ホルンなどのパフォーミング・アートとの出会いだったと言います。彼女たちが人間、あるいは女性の身体をこだわって表現していくのを見て、山元さん自身もパフォーミング・アート──自分自身をさらけ出す表現へと、方法を大きく変えていくことになります。
今回出展された作品はすべて写真でしたが、写真による表現を始められたのは2004年の留学中だったとのこと。写真とパフォーミング・アートとは一見かけ離れているようにも思えますが、身体やそのパフォーマンスへの興味という点は変わらないそうで、今回出展された作品も、ラトビアでのワークショップの際にモデルとなる女性たちにパフォーマンスをしてもらって、それを写真に収めたものでした。被写体にパフォーマンスをしてもらう、あるいはその時に繰り返される、言葉がなかなか伝わらない中でのコミュニケーション。カメラは必ずしも見たそのままの「真実」を写すわけではありませんし、ままならないコミュニケーションの中でのパフォーマンスも、撮る側の意思そのままに行われるわけではありませんでした。しかし偶然現れる、予想だにしない、普段とは異なって見える人間の姿──今回の数々のポートレートでは、それを収めていくことに集中していたそうです。

120128zadankai_IMG_3598.jpg
かつて自分もそこにいた「情景」──宇野珂苗さん
モチーフやその場所が極めて明解だった宇野さんの作品たち。制服を着た同じ年代の女子学生たちが、おそらく学校のどこかで集まって静かに戯れ楽しんでいる、そんな情景。フェンスで囲われた学校の屋上に集まって、そこにできた水たまりではしゃぎながらも、どことなく雰囲気は静かで少しさめた目線を外へ投げかける女の子たち──宇野さんは自分の中高時代に経験した情景を作品として描き起こしていきたい、そう語ります。
むろん、作品の中に登場するのはほぼ、女の子で占められているわけですが、必ずしも女性的なものを際立たせたり、その美しさをことさらに強調したりしようとしているわけではなく、自分が経験してきた中にある、女の子たちが集まっている場所や空間、それを「情景」として描くことにウェイトが置かれているそうです。あるいは、もう1つ作品の中で強調したいものとして挙げられたのが女の子たちの「心情」という側面です。例えば楽しげにじゃれ合っている場面が印象的な一方で、どことなく冷めた俯瞰的な女の子たちの目線。学校を通過していく年代にある、心の揺れ、誰もが経験するような複雑な感情を作品に込められないか、とも考えているということでした。


これからも女子学生たちが登場する「情景」を描き続けていきたいという宇野さん。描くものは一貫している一方で、技術的な面や表現方法では新たな試みをしてみたいといいます。また、学校以外の場所もモチーフも取り上げたいと模索しているそうです。
山元さんは理想化されたイメージを追うより、表現の可能性を追求していきたいと言います。その時に身近に感じるアーティストとして名前を出していただいたのが写真家のダイアン・アーバスでした。親近感を持ってフリークス(「普通の人」とは異なる身体や嗜好をもつ人に対して使われる言葉)を写真に収めていった一方で、日常の世界のごく普通の人間が見せる一瞬の不気味な姿を、緊張感を持って写真に収めていった写真家として知られている人物です。山元さんも写真を撮る際のルールや当たり前と思われていることから学び逸れながら、普通の人が見せるおかしさや不気味さを写真の表現として追及できないかと模索しているそうです。
*ダイアン・アーバスについては、伝記映画『毛皮のエロス ダイアン・アーバス 幻想のポートレート(Fur-an Imaginary Portrait of Diane Arbus)』(スティーヴン・シャインバーグ監督、ニコール・キッドマン主演)があります。また、作品集(『ダイアン・アーバス作品集』)、伝記(『炎のごとく―写真家ダイアン・アーバス』)も刊行されています


今回の個展では、女性の作家による女性をモチーフにした作品が目を引きましたが、モチーフにしているもの、表現しようとしているものは、おふたりそれぞれ、特徴的で興味深いものでした。少女を登場人物にしながら、記憶の中のある場所や空間を表そうとした宇野さんの作品。あるいは、10代から30代という幅広い年齢層の女性をモチーフに、普段とは異なって見える人間の姿を求めた山元さんの作品。おふたりの表現は単純に女性特有の表現というところに落ち着かせられないでしょうし、「美しい」、「綺麗」、「かわいい」といった形容で簡単に括れないことも確かなのではないでしょうか。「[「女」という視点から論じるのは既に古臭いことだと言われているが、果たして本当に、]「女」の視点をことさらに意識しなくてもいいほどに、女の視点は様々な分野で根を張り、変化をもたらし、文化や社会を成熟させたのだろうか」(笠原美智子『ヌードのポリティクス』)。アートの中で「女性」がクローズアップされるとき、まだまだ何か揺れ動くものがある、そんなことを感じた座談会、そして個展でした。



showcase宇野珂苗個展「steal a glance」
【作家略歴】
宇野珂苗(うの・かなえ)
1985.1 奈良に生まれる
2007.3 京都嵯峨芸術大学 油画分野卒業
2008.2 グループ展「ユルサレタジカン」(cafe le baobab)
2008.7 三菱商事アート・ゲート・プログラム第一回 入賞
2009.9 個展(銀座フォレスト)
2010.9 個展「all light sight higher」(立体ギャラリー射手座)

showcase山元彩香個展「Nous n'irons plus au bois」
【作家略歴】
山元彩香(やまもと・あやか)
1983 神戸生まれ
2004 California College of the Arts 交換留学
2005 "目の前を聞く"  京都精華大学ギャラリーフロール
2006 京都精華大学 芸術学部 造形学科 洋画分野 卒業
2006 "写真新世紀2006" 東京都写真美術館
2009 エストニア、アーティストアソシエーションにレジデンス
2010 エストニアにて3ヶ月のボランティアプログラムに参加
2010 "photos at an exhibition" KuKu Club/Cafe,Tallinn,Estonia
2010 川北ゆうと二人展   "絵の彼方"   京都精華大学ギャラリーフロール
2011 ラトビアにてISSPのワークショップ(Claudine Douryのクラス)と展示に参加




kono 01Y3日記
コメントしてください