2012年3月21日

「ビブリオテーク208.ext〜移動美術資料室がCAPにやって来る!」 第10回:美術資料の一形態、「エフェメラ」に探りを入れる レポート


去る3月11日(日)に、「ビブリオテーク208.ext」の第10回にして最終回が開催されました。今回のテーマは「美術資料の一形態、「エフェメラ」に探りを入れる」。少し期間が開いてしまいましたが、レポートをさせていただきます(藤墳智史)。

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本題に入る前に、前回の「神戸博」の関連資料として、神戸新聞が当時発行した「神戸博全図」が登場。

さて、「エフェメラ」とはそもそも、短命なもの、一日限りのものという意味を持つ言葉ですが、翻って、イベントや展覧会のチラシやDM、入場券、会場で配布されるパンフレットなどのような、会期が終われば役割を終えて廃棄されてしまう、普段は保存されにくい資料を指す言葉でもあります。果たしてどんな面白さや意義が見えてくるのでしょうか。

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その日限りで役割が終わってしまう、しかも残りにくいということもあり、「エフェメラ」の資料価値が認識されてきたのは最近のことのようです。英語圏では10年ほど前に、ようやく『エフェメラ百科事典』(Encyclopedia of Ephemera: A Guide to the Fragmentary Documents of Everyday Life for the Collector, Curator and Historian)が刊行されるなど、徐々に資料的な価値が認められるようになってきたようです。もちろん、今回は『エフェメラ百科事典』も会場にやってきています。
※『エフェメラ百科事典』の詳細は下記をご覧ください。
http://www.routledge.com/books/details/9780415926485/

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『エフェメラ百科事典』の項目を見ていくと、チケットやパンフレットはもとより、ノベルティグッズやクーポン、果ては煙草のパッケージまで、様々な品目を見つけることができます。私が面白いと感じたのは、"Football Program"。現在でいうところの、サッカーの試合の際にスタジアムで配布されるマッチでープログラムのようなものでしょうか。ちなみに、一例として掲載されていたのは100近く前のイングランドでのものでした。この事典では実際の資料の画像の掲載は少ないものの、資料についての概説と、その資料の研究・蒐集に関係する団体についての情報などが掲載されています。


ところで、この神戸にも有名なエフェメラのコレクションが存在しています。それが、神戸ファッション美術館の「大内順子コレクション」です。ファッション評論家の大内順子氏が蒐集していた、ファッションショーの案内、ショーのプログラム、プレスリリースなどが含まれています。最近、時代ごと、ブランドごとに整理が進められ、一般公開も行われているそうです。ブランドごとのデザインやコンセプトの違いを知る、貴重な資料です。

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今回、エフェメラの主役として登場したのが、1963年~80年にかけて、ビデオアートで知られているナム・ジュン・パイク(1932~2006年)とチェロ奏者のシャーロッテ・ムアマン(1933~91年)が共演して行われていた、「ニューヨーク・アヴァンギャルド・フェスティヴァル」に関するものです。ムアマン自身がエフェメラの蒐集家だったこともあって、没後に、フェスティバルに関する大量のエフェメラが発見されます。このエフェメラを分配する形で(福袋のような形で)、"The World of Charotte Moorman、Bound & Unbound"というエフェメラセットが販売されました。

このセットには、フライヤー、DM、チケット、プレスリリースなどが含まれているのですが、興味深いのは、セットごとに中身が違うということ。コレクションを「山分け」するようにセットを作ったこともあって、品目が異なることになったそうです(ただし、どのセットにも22の資料が含まれていて、その点は公平に分配が行われているようです)。今回やってきたセットには、果たしてどんな資料が入っているのか...。

フライヤー、DM、チケット、プレスリリースなどは、今となっては希少価値があるかもしれないが、いったいそれにどんな意味があるのか、という指摘があるかもしれません。しかし、このセットは、とても重要な意味を持っています。

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実は、「ニューヨーク・アヴァンギャルド・フェスティヴァル」は、イベントや展示がどんな風におこなわれていたのか、現場はどんな様子だったのか、把握できる資料が少ないのだそうです。しかし、上記のセットに入っている資料の中には、フロアガイドや、カタログ、写真などが含まれており、実際に何がどう展示されていたのか、会場はどんな雰囲気だったのか、いかなるコンセプトの下でイベントが開催されていたのか、といった点をうかがい知ることができるわけです。アーティストのキャリアや、作品、展示などについて、より深く知ることができる貴重な材料、それが今回のエフェメラが見せてくれた面白さだったのではないでしょうか。

今回は、森下さんが蒐集されているエフェメラや、参加者の方が持ち込まれた資料も登場。イベントや展示会の面白さを参加者どうしで改めて振り返ってみたりと、貴重な時間となりました。

今回で「ビブリオテーク208.ext〜移動美術資料室がCAPにやって来る!」のシリーズは一旦終了となりますが、来る6月からは第2シリーズのスタートが予定されています。果たして、どんな資料がY3にやってくるのか、楽しみですね。

kono 01Y3日記
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