2012年8月14日

9月のcapture「日本のポトゥア、東野健一」


日本のポトゥア、神戸生まれの65歳。40歳で会社を辞めて絵描きとなる。独特の細密画を描き、インドに古くから伝わるスタイルで紙芝居をする。C.A.P.との関わりは15年以上。現代美術の作家の間で異才を放ち続ける東野さんに話を聴きました。
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■会社を辞め、絵描きになり、そのうえ紙芝居を?
37歳の時、組織のなかで働くことに違和感を感じたの。実は24歳まで普通に石膏デッサンとかしてたんよ。一人でやるならやっぱり絵かなっ、て思ってた時にすごい絵を見ちゃって。それは前田常作さんのアクリルで描いた曼荼羅。見たものではなく頭の中の宇宙観を描く、それとアジア的なものの見方。感銘をうけたな。
それで結局40歳で会社を辞めて絵描きになったね。少しして今度は「インドの織と染色」という展覧会で絵巻物が展示してあって、なんてシンプルで、なんて力強いんだ!ともう背中がゾワ〜としちゃってね。それがポト(インドの絵巻物)だった。いろいろ調べたけどほんとに資料がない。「民藝」という本で4ページの記事を見つけてね、それを持ってインドに行きました。そしたらなんと執筆者がそこにいたんよ。「よくこんなちょっとの記事を見てここまで来たなあ」って、すぐに絵巻物師(ポトゥア)のいる村に連れてってくれたの。
そこで貧しい暮らしをしながら描き、語る人に出会った。ムクンド・チットロコルというポトゥアを勝手に師匠と決めて、どこでも一緒についてった。会社辞めて絵描きになって展覧会もしたけど、なんか違うって思ってた。それがポトゥアと出会って、絵だけではない「表現」の方法にピンと来たのね。
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2011年、東野さんはインドに渡り、しばらく滞在した。
これまで自分の活動の支えになった人達に感謝を込め、ボックス入りのシート「ジョナキ・ポカ(蛍)」として滞在記をまとめた。


■ポトを作る
ポトには物語が必要でしょ。で、まず民話とか神話とかいろいろと読んでみようと思ったわけ。毎日読んですっかり感心しちゃって、こんな面白いものがあるなら自分で書くよりここから選ぼう、と。
最初、アフリカ民話の「悪者うさぎ」と宮沢賢治の「洞熊学校」が候補だったんだけど、ふと本棚にあった内田百閒の「王様の背中」という本が眼に入って、その中の「狼の魂」がすっかり気に入ってしまった。
これを自分の解釈で表現し直そう、それで全部神戸弁でやろうと決めた。物語を反芻して頭に浮かぶイメージをどんどん絵に描く。で、必要だと思う部分だけ切り取って、後は捨てちゃう。それを部屋に吊るしてゆく。吊るしたものを観てどうして組み立ててゆくかを考える。それが繋がって絵巻物になる。
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東野健一によるポト「狼の魂」

だから僕の絵は全然物語の説明になってない。紙に墨を流し、形のよいところを選んで見立てで細かく描き込んでつくることもある。ね?全然説明じゃないの。「狼の魂」に出て来る猟師なんかもう記号みたいだもんね。それから巻物は広げてゆく時に、前のシーン、今、それからその先も同時に少し見えちゃうでしょ。すごいでしょ?形は違うけどポトも曼荼羅のようなものだね。

■CAPとの関わり「つきあそび」
1997年のイベントに参加したのがはじめかな。
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1997年CAPARTY#5「ART POLLEN」に参加。
もう組織はいやだと思ってたのにC.A.P.のゆるさが気に入ったのと、他のアーティストの中に自分を置いてみたいという気持ちでね。でもすごい畑違いでしょ。この人達とどうやってつき合っていったら良いかと考えちゃって。それでみんなの昼飯を作って食べながら話したりして。でもその直後に病気になってね、みんなに世話になってしまった。
それで何か役にたてれば、と2003年から他のメンバーではできなそうなことを毎年やってきたのね。でも今年の企画で何をしたら良いか実は行き詰まっていて、そしたらパフォーマンスの白井廣美さんが山名酒造の社長さんと知合いでね、大人っぽいことしようよと提案してくれた。そこから広がって、琵琶の片山旭星さんに来てもらおう、陶芸の中澤雅子さんにぐい飲み作ってもらおう、電子音楽を入れよう、宮沢賢治の研究者の中野由貴さんには賢治のレストランというテーマであてを作ってもらうとか、中秋の名月一日前、海のうえで月を愛でつつ大人の時間だよ。もちろん紙芝居も。「つきあそび」と名付けて、そりゃたのしいはずですから、みなさん是非来て下さい。

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インド滞在で作ったボックス入りのシート「ジョナキ・ポカ(蛍)」
2000円で販売中(欲しい方はお問い合わせ下さい。)
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