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2004/5/12-31
REIKO NIREKI DRAWING EXHIBITION
「back / ground / history-私の出会った人達」

数年前年に「意味と彼女」という展覧会をやったことがある。とある女の子のインタビューが聞き手をとおして文章になっていく課程を音と映像で見せるというもので、ひとりの実在する「人物」とそこからすくい取られた意味のギャップを見せるというのがテーマだった。今ふりかえると頭でっかちで未熟な展覧会のように感じるが、いまだそのことに対する興味を失っていないところをみるとテーマの設定だけは悪くなかったように思える。個人がもっている存在の意味なんて、傲慢で無責任な他人の中にしかありえない。

楡木令子さんという作家についての予備知識はまるでないのだけれど、今回の展覧会「back / ground/ history 〜 私のであった人達」をみて感じたのはまさにそういうことだった。自分と他人の間におこる意味のずれ。それをどうやって消化していくかという問題についてこの作家はきわめて真摯に考えているように思える。館内のいたるところに展示された記憶によって描かれた何人もの後ろ姿。そして彼らが語る彼ら自身についての声。その間にはあるどうやっても埋めることができない距離がある。そのことがとても切なくて、愛おしい。

タイトルのとおり、作品で描かれる人物たちは全て楡木さんが実際に出会った人たちだ。彼らと彼女との関係はさまざまで、中には「よくすれ違った」ぐらいの繋がりの人もいる。それらの出会いの中から生まれた印象を彼女はあえて後ろ姿という形に落とし込めていくわけだが、それが語るものは驚くほど多い。大きい人、小さい人、痩せてる人、太ってる人、足の長い人、足の短い人……そんなボンヤリとした輪郭が、その人の人格や表情までを想像させるのはとても興味深いことだ。しかしふと流れてくる彼らの生の声に耳を傾けたとたん、彼らは急に現実身を帯びてに、逆にイメージはものすごいスピードで色褪せていく。それは自分の中にいる他人が結局のところ自分の中にしかいないということの証明のようにも思える。

ただしこうした勝手な憶測は抜きにしても、この展覧会はただただ概念的で頭でっかちなものでも解決のしようのない孤独感に満ちたものでは決してない。むしろ「この人は○○さんみたい」とか言って作品をめぐっていくのは純粋に楽しいし(そういえばどの後ろ姿も何処かでみたことがあるように感じだ)、館内のあちこちでいろんな「人」と出会うのはなんとなく賑やかな気持ちにだってなれる。すこし情緒的なモノ言いになるが、展覧会全体を何か暖かい空気のようなものが包み込んでいるようだ。きっとそれは楡木さんという作家がこの展覧会で示したもっとも確かな自身の人間像だ。


REIKO NIREKI DRAWING EXHIBITION
「back / ground / history-私の出会った人達」
1998年旧東ドイツのレジデンス滞在中出会った人達との語らいをきっかけに、個々の背後にある歴史について話を聞き彼らの後ろ姿を等身大に描いてゆくプロジェクトを開始した。親しくなった人達に同じ“15の質問”をして母国語で答えてもらい録音した。それらは個人的でありながら歴史や民族の大きな流れを感じさせるものであった。なんの見栄も虚飾ももたない人の後ろ姿、語りが作り出す異空間の中で人間の存在について提示してゆきたい。
5月12日(水)〜31日(月)
※22日(土)18:00よりアーティストトークとパーティーを行います。
ギャラリー海側 他

2002年 ・ 2003年 ・ 2004年

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