2011年12月20日

1月のcapture「海賊に夢中?!」

"capture"はC.A.P.のニュースレター"CAPER"に毎月掲載の取材記事です。
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1月のcapture「海賊に夢中?!」
ここ数年、パイレーツオブ・カリビアン、ワンピースとなぜか海賊ものが人気ですが、Club Q2で海賊をテーマにしたトークとDJパーティーを行ないます。社会からドロップアウトして自由を獲得する、そういう海賊の姿が閉塞感に覆われた世の中で受けているのでしょうか?研究室に海賊旗を掲げる今回の企画の中心人物、小笠原博毅さんに海賊の面白さを語ってもらいました。

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何故、ぼくは海賊を?
ぼくは元々イギリスのサッカーを研究していてロンドンに住んでいました。テムズ河畔には古いパブが結構あって、そこには昔なんとか船長が来た、亡霊が出る、海賊の遺産がある、とかいうようなまことしやかなはなしが結構あって、海賊の実在性がすごく身近な町だったんです。
それともうひとつ、高校の世界史などでは、ブルジョワジーが王制や封建制を打倒し、自分たちの権利を勝ち取って憲法と議会を設置し、新しい社会を作ったという定説があります。でもほんとにそんなにうまいこといったのか?そんな風に思ったとき、たまたまイギリス革命、フランス革命、アメリカ独立革命と海賊との関係を書いた『多頭のヒドラ』という本を読んだんです。その本は、市民革命の重要なポイントに水夫、船員等がいたのに、歴史からは彼らのラディカリズムが全部捨てられ、革命は陸の市民がやりとげたと書かれてしまっているけれど、海賊の旗を掲げた彼らこそが国家からの自由とか海のうえでは人は技能に応じて平等だということを言っていた。チャールズ・ジョンソンの『イギリス海賊史』にもそのことはちゃんと書かれています。悪い奴、賊な奴、処刑された奴、そういう奴らこそが近代の政治原理や社会システムを先取りしていた。そいつらを罰して植民地を拡大していったイギリスやフランスのような国が、そいつらの考えをハイジャックした、という発想が面白いと思ったのです。


111216pirates.jpg自由の女神と女海賊
その一番如実な例が、7月革命を主題にしたドラクロワの『民衆を導く自由の女神』。アメリカの独立、フランス革命、そして国民国家、ヨーロッパという概念が生まれ、しかしまだ王制が残っていて市民運動が起きたわけだけど、その100年も前に、『イギリス海賊史』のオランダ語版の挿絵に、全く同じ構図の女海賊の絵があったのです。ドラクロワはきっとこの挿絵を見たと思います。自由平等の原点だといわれる自由の女神の元ネタが、実は海賊にあったんです。海賊が作った社会原理を陸のブルジョワが都合よくおき直したということで、それを正しい歴史として私たちは教わっちゃうんですね。


111216ct_pirate_utopia_book.jpg海賊と文学と脳科学者
海賊に憧れるのは若者だけじゃない。アメリカのビートニク世代の詩人や思想家達は海賊に惹かれていて、ピーター・ランボーン・ウィルソンの『海賊のユートピア』やバロウズの『ゴーストオブチャンス』など海賊の話しです。今回のゲスト、美馬達哉さんは新進気鋭の脳科学者でバロウズマニアです。人間は脳の5%くらいしか使っていないといいますが、ドラッグによって五感を閉じて別の感覚を開く、そういうビートニクの人達の考えに興味があるのかな。今回はバロウズやウィリアム・ブレイクを中心に、文学と海賊について語ってもらおうと思います。それとジャマイカに住んでいた関西学院大学の鈴木慎一郎さんがDJをするんですが、海賊のモチーフはレゲエやダブにものすごく影響を与えています。海賊版とか海賊ラジオという、パッと移動して逃げるメディアで広がった音楽だし、歌詞にも海賊が出てきます。多分、鈴木さんはジャマイカのレゲエに日本で一番詳しい人だと思いますよ。


111216ct_fuckthesystem.jpgFuck the System
近年の移民等の暴動を評して、非常に海賊的だという思想家等がいます。彼らはバロウズ等に言及して海賊のユートピアを求める思考が、こういう運動に影響しているというんですね。でも海賊がアナーキーで自立した人間の集団だと認めるのは歴史的にみてロマンティックすぎです。船を操るというのは自由ではなく、いろいろな掟にがんじがらめになるわけで、海賊というのは陸の社会にいられなくなった人たちにとっての唯一の生き延びる手段だっただけのことです。
この「Fuck the System」っていう写真はテムズ川のそばで見つけた落書きですが、これなんか「制度なんてくそくらえ!」とさっと描いて、さっと逃げる、海賊的な行動だと思うんです。海賊の最も重要なキーワードは「移動」ですね。

CAP CLUB Q2で1月21日(土)に開催されるPirates' Dialogue。文学者やアーティストにはぜひ来てもらいたいという小笠原さん。海賊が飲んだ酒、海賊が食べた料理を用意して、海のうえでお待ちしています。

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小笠原博毅

神戸大学大学院国際文化学研究科准教授。
イギリスのサッカー研究のためグラスゴーとロンドンで計8年間くらす。
専門は文化研究。






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