2012年3月16日

浅野孝之展「紙」 & 宮崎宏康展「ex.」、合同オープニングパーティー レポート


3月6日からCAP STUDIO Y3のギャラリー1にて浅野孝之さん個展「紙」、10日からはギャラリー2にて宮崎宏康さん個展「ex.」が開催されています(いずれも3月25日(日)まで)。去る3月10日(土)には、両個展の合同オープニングパーティーが行われました。その模様をレポートさせていただきます(藤墳智史)。


見たこともないもの、そのイメージを具体化する──宮崎宏康さん

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普段の展示とは少し変わって、パーティションを使って外部と隔てられたギャラリーで、宮崎さんの個展「ex.」は行われています。入口と出口が示され、劇場や芝居小屋が登場したような雰囲気。そのエントランスをくぐると、不思議な物や機械(?)、あるいはキャラクターたちが出迎えてくれます。まるで自分が物語や舞台の中に迷い込んでしまったような感じです。オープニングのプレゼンもそんな不思議な部屋の中でスタート。
演劇の演出に関わったり、パフォーマンスを展開したりと豊富な活動歴を持っている宮崎さん。意外にも今回が初めての個展なのだとか。脚本を手がける友人の示唆を受けて生み出されたキャラクターや小道具、そして舞台芸術。まだ姿もなく、漠然としたイメージしかないものを舞台の上に、観衆に見える形で登場させる作業。舞台上で求められるものを具体化すること、これが宮崎さんの制作の原点だそうです。

舞台上にいたキャラクターが街へと飛び出していく──ストーリーの中で役割を与えられていたキャラクターたちが、今度は自分でストーリーを携えて街の中で活躍する、こうしたパフォーマンスを宮崎さんは始められたそうです。頭部に長い筒を備えた「筒男」、一度挟まれたら抜け出せない「乳男」、かつては空を飛ぶ機能を持っていたほどの立派な「エラ」を持っていたものの、それが権威の証程度に退化してしまった「エラ男」、神経回路が発達してキノコを形成するまでに至った「しいたけ男」......etc、個性的なキャラクターたちが、街ゆく人たちと一緒に繰り広げる不思議なストーリー。今回はギャラリーの中もまた、その舞台になっているのかもしれません。あるいは、複雑な仕掛けを持った、一目見ただけではどんな動きをするのかわからない機械たち。人間の脚が取り付けられ、膝のお皿の下を叩くと足がぴょこんと動く「脚気マシーン」、翁の面の下から予想外の物体が顔を出す文楽人形、それを通じて光を見るとそこらじゅうに「CO2」の文字が浮かび上がる「CO2メガネ」、角を曲がり続けるたびに延々と次の角に自分のものらしき後ろ姿が見える「ドッペる玄関」。予想とは違う、意外な動作で私たちを驚かせてくれる機械たちが、ギャラリーの中で蠢いています。

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ギャラリー中央のテーブルに置かれた変わった形の彫刻。実はこれはひらがなを立体化したものです。文字は普段は平面に置かれていて、1つの面だけで意味やイメージを伝える記号としての役割を果たしていますが、この文字を立体化させてみると、上下左右それぞれで異なる表情を持つことになります。置かれている様子を見れば、それが文字だということすらわかりません。あるいは、おもむろに立てかけられた傘から滴る水滴から伸びている不思議な模様。一見するとCGにも見えてしまいそうですが、本物の水でできています。普段周りにあるものや身近に起こっていることを、1つの場所や枠の中に留めずにさらに、別の姿を見せるものへと変化させていく──今回の個展では、キャラクター、からくり、彫刻など、様々な制作方法の中に一貫している、宮崎さん自身のスタンスが見えてくるように思います。

※今回の個展に登場するキャラクターのプロフィールやからくりの仕掛けについては、下記の宮崎さんのサイトもご覧ください。
http://www.eonet.ne.jp/~hiro728/


これまでの作品や制作方法を振り返るための「紙」──浅野孝之さん

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 シンプルでミニマルな雰囲気が印象的な浅野孝之さんの個展「紙」。文字どおり、展示されているすべての作品が白い紙(A4のコピー用紙)を素材としています。シンプルでミニマルな雰囲気が際立たせられているという意味では、逆にとても個性的な展示です。
 既製品を使って、そこから違う見え方を引き出したり、仕掛けを付け加えたりする作品を多く手掛けてきた浅野さん。4階リビングルームに飾られている、何気ない金属板を重ねてモアレが見えてくるような仕掛けを施した作品などのように、身近にあるものが予想外な形に変化して、なおかつ面白さを感じられるようにとことん工夫するというのが、これまで一貫した制作方法だったと言えるのかもしれません。

その一方で、手の込んだことをしようとして、作りにくさを感じることも多くなっていたそうです。そうした状況で、一度自分の方法を検証する、リセットしたいと考えて思い立ったのが、今回の「紙」だったそうです。紙は、それ自体だけではほとんど「ゼロ」で、軽さや薄さが目立つものです。そこに何らかの行為や働きかけを加えて表現することを試みる、そんな作品が「紙」では展開されています。素材がシンプルでミニマルな分、変化は目立ちやすくなりますし、作家自身の「表現」が際立ってくるとも言えます。その点で、素材に頼ることを極力避けつつ、自身の「表現」を問い直す、そんなコンセプトが明解に見えてくるのではないでしょうか。

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 もちろん、シンプルであるために、一方で展示する作品として成立させる工夫も求められることになります。制作にあたって、浅野さんは1つの素材と対峙することを意識したといいます。加工したときに、素材の状態がどう変化するのか、どんなものになるのか、あるいは、どういった展示の仕方が考えられるのか......、等々、展示されている作品の1つ1つから作品になるまでの工夫と作りこみの過程が見えてくるでしょうし、いくつかある作品全体でどんな空間ができるのかの試行錯誤もうかがい知ることができるように思います(実際、展示には至らなかったものや展示方法を変更した作品もあるそうです)。「紙」という個展の名前や素材のイメージから、展示や作品のシンプルさが、まず意識されるかもしれませんが、実際に作品を見てみると、地道な作業や高い技術、展示に至るまでの試行錯誤など、濃密な内容を持った作品が並んでいると感じられました。


今回同時期に行われている2つの個展は、一見すると対照的な内容のものに見えます。しかし、個展に臨むお二人の姿勢は不思議と共通しているようにも、オープニングに参加していて私には思えました。やや強引なまとめになってしまいますが、作家が自分自身の作品や活動を、どんなやり方で振り返ったり、更新したり、リセットしたりするのか、あるいは、どうやって作品や展示のコンセプトをひねり出していくのか、その過程や現場を知る格好の機会なのではないでしょうか。



【作家略歴】
浅野孝之 あさのたかゆき
2010年
 京都造形大学大学院 芸術研究学科 芸術表現専攻 修了
 C.A.Pアトリエアーティストとして制作
2011年     
 岐阜県岐阜市にて制作活動中

【展覧会】
2008年    
 京都造形芸術大学卒業制作展 (京都市美術館)
 日韓中現代陶芸新世代交流展 (中国 仏山市)
 四大学合同陶芸展 (京都 立誠小学校)
 不器用展 (京都 ギャラリーRAKU)
2009年    
 個展 Sound image (京都 ギャラリーマロニエ)
 spart展 (京都 ギャルリオーブ)
 home away 京都の新しい解釈 (京都 ギャラリー小西)
2010年  
 京都造形芸術大学大学院修了制作展 (京都 ギャルリオーブ)
 個展 既製品の観察 (神戸 GALLERY 301)
 Derivation (北海道 GALLERY門馬)
 六甲ミーツ・アート (神戸 六甲山)
 個展 口4つと犬 (大阪 workroom*A)
 信楽芸術祭 (滋賀 山兼倉庫)
 GALLERY301 1st Anniversary GROUP EXHIBITION 2010
2011年     
 Art Court Frontier 2011 #9 (大阪 ARTCOURT Gallery)


宮崎宏康 みやざきひろやす
1997年
 PARCO URBANART#6 (しいたけ人間 / 反射神経マシーン)
1998~1999
 たけしの誰でもピカソ 出演 (反射神経マシーン / 筒男)
1998~2008年
 劇団「ベトナムからの笑い声」 俳優/特殊美術
2000~2006年
 大道芸ワールドカップin静岡 出場 (筒男・乳男・エラ族)
2000年
 京都教育大学大学院修了
2001年
 ワコール主催OPPAI ART LAB. πr事情展 (乳男)
2002年
 フィリップ・モリスK・Kアワード最終審査展THE FIRST MOVE (筒男・乳男・エラ族)
2003年
 高校生100人による100mの壁画「SHOIN WAVE」in海フェスタ神戸メリケンパーク
2004年
 高校生による「モノクロ⇔カラフル・パフォーマンス」in神戸市灘区水道筋商店街
2005年
 愛・地球博「世界からくりコンテスト」審査員特別賞 (反射神経マシン 男足/女足 with 谷口先生)
2006年
 京都文化祭典06 継ぐこと・伝えること番外編「きりしとほろ上人伝」文楽人形頭製作
2007年
 神戸ビエンナーレ 大道芸コンペティション参加 (乳男)
2008年
 第1回 TAGBOAT AWARD 優秀賞(ひらがな-Figure "む")
2009年
 TAGBOAT SUMMER AWARD 入選 (ひらがな-Figure "ひ")
 YONG ARTIST JAPAN vol.2 出展 (ひらがな-Figures)
2010年
 KONICA MINOLTA ECO&ART AWARD 2010 審査員特別賞 (CO2 mega-net)
2011年
 「求ム、創造の天才」FRANCK MULLER ART GRAD PRIX 最終選考ノミネート (ドッペる玄関)
 EWAA 2011 Finalist's Exhibition in London Judges Personal Favourite Prize
 おおさかカンヴァス推進事業 協賛作品 (CO2 メガネ with エラ紳士in 通天閣)
2012年
 EWAA Art Sale for a Charity in London (ひらがな-Figures)
kono 01Y3日記
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