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CAPARTY vol.21「第5回 アート林間学校」 感想

三上喜美男

「取材入門!」

 下田氏からメールをいただいたのは、今年四月のことだった。
 夏にCAPHOUSE恒例の「アート林間学校」を開催する予定だという。そこで講師をしないか、とのお誘いだった。「内容は、新聞記者的取材入門みたいな…」。
 何で「アート林間学校」で「取材入門」なのか、と首をひねる。行間から、下田氏の怪しい笑顔が浮かぶ。
 「断ろうか」。いったんはそう思ったものの、思案の末、受けることにした。
 邪険にしては、人間関係に障りがある。しかしそれだけではない。「自分でもお役に立てそうだ」と考えたからにほかならない。
 下田氏の話をよく聞いてみると、どうやら新聞記者の仕事自体に、素朴に興味を持っているらしい。「取材に三色ボールペン使ってるんですか?」と、他愛もないことを聞いてくる。それなら、答えるのは簡単だ。
 「いいえ。僕は二色です」
 そんな問答も、大きくとらえれば「アート」だといえなくもない(?)。しかも、自分の仕事を語るのだから、等身大で臨めばいい。そんなノリで引き受けることにした。それから七月まで、何も用意をせずに過ごした。
 とはいえ、直前になって、さすがに僕も考えた。人に聞いてもらうのだから、少しは煮詰めたものにしたい。来てくれる人に、何かしら発見を持って帰ってもらいたい。
 思案の末、思いついたのが「日常生活の中の取材」という観点だ。驚きや感動。知りたい、という衝動。伝えたいという思い。そうした当たり前の感覚を行動に移せば、それが「取材」になる。「決して特別なことではない。あなただって、知らないうちに取材をしていますよ」というわけだ。
 これなら、取材をしたいと考えている人の励みにもなるだろう。
 当日は十人ほどが参加してくれた。幸いというか、取材を仕事にしている人はいなかったように思う。むしろ「本物の新聞記者が見たかった」という声が目立つ。ほとんど全員が「下田氏」状態だった。
 僕の話がどこまで胸に響いたか。ただ、思った以上に真剣に聞いてくれ、質問も多く、たくさんの人と話ができた。笑いもあった。気がつけば午後九時を過ぎていた。
 仕掛け人の下田氏は「楽しかった」といってくれた。それならきっと、会場にいたほかの「下田氏」たちも、楽しんで帰ってくれたことだろう。
 僕自身も今、「楽しかった」という満足を頼りに、この文章を書いている。この文章もまた、「取材=伝えたいという衝動」の表出にほかならない。講座に来てくれた人と、この文章を通じてささやかな記憶を共有したい。そのことで、今回の僕の役割はようやく幕を下ろすことになる。

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