2012年1月18日

1/15のビブリオテークは「芸術倶楽部」であった

今回は参加者の藤墳智史さんによるレポートです。 120115biblio01.jpg
今月のテーマは8月の第3回目に引き続いて「雑誌を改めて読み直す」。前回は1978年から81年にかけて発行された『季刊アップ』が取り上げられましたが、今回はやや時代をさかのぼって、『芸術倶楽部』が取り上げられました。1973年1月の創刊からわずか1年、のべ9号を世に送って忽然と消えてしまった幻の雑誌です。

前回の『季刊アップ』が写真や絵画、音楽といったジャンルをクロスオーバーしていく媒体であったように、『芸術倶楽部』もまた、映像や美術だけでなく、広く文化全般を扱った媒体でした。編集委員には粟津潔、石崎浩一郎、今野勉、勅使河原宏、寺山修司、中原佑介、松本敏夫といった名前が連なっています。毎号、各編集委員がリードする形で特集が組まれていたようです。

この『芸術倶楽部』の前身には『季刊フィルム』(1968年10月創刊)があり、その発行元として現在まで続くフィルムアート社が設立されています。また、この『季刊フィルム』創刊の背景としては、勅使河原宏がディレクターを務めていた、前衛芸術の拠点の「草月アートセンター」の活動も無視することもできません。「映画雑誌でありながら、映画という枠を越え、1960〜70年代前半という激動期において、一つの芸術的、理論的極を形成した」(平沢剛)『季刊フィルム』と合わせて読み直しをしながら、『芸術倶楽部』の独自性を探っていく、というのが、今回のテーマの眼目というところでしょうか。

※『季刊フィルム』と『芸術倶楽部』からの選集として、『「芸術」の予言!! 60年代ラディカル・カルチュアの軌跡』(フィルムアート社)が刊行されています。また、「草月アートセンター」の活動については『輝け60年代─草月アートセンターの全記録』(「草月アートセンターの記録」刊行委員会)が詳しいです。


『芸術倶楽部』1974年1-2月号では突如として「ロシア・アヴァンギャルド」の特集が組まれたりするなど(『季刊フィルム』時代に前兆があったようですが)、各号で動きや実験的な要素が強く出ている雑誌です。1974年6月の最終号「個人映画」特集には、故・相原信洋さんの活動も紹介されています。
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今回は『芸術倶楽部』、『季刊フィルム』だけでなく、1960年代以降の雑誌文化、特に総合雑誌の広がりもまた意識することになりました。構造主義をはじめとする最新の哲学の動向を紹介すべく、中野幹隆によって手がけられた『パイデイア』や『エピステーメー』。あるいは、松岡正剛が手がけた『遊』は特定のジャンルに囲われない独特の雰囲気を醸し出しています。前回取り上げられた『季刊アップ』もこの中に位置づけることができるでしょう。

60年代から70年代にかけて総合雑誌を通じて行われてきた横断的、あるいはクロスオーバーという試み。自分が知っている世界から知らない世界へと扉が開かれ、知ることが実際に何かをする・実践することの後押しになるような雑誌たち。ジャンルの壁が高くなっている現代においては、示唆に富むところが多いのではないでしょうか。

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次回のビブリオのテーマは「神戸博」。と言っても「ポートピア81」のことではなく、1950年に現在の王子公園周辺で開催された博覧会です。この「神戸博」戦災からの復興が掲げられ、「貿易」がテーマとされたそうです。同時期に西宮で開催された「アメリカ博」(現在の西宮ガーデンズ付近が会場だったそうです)に押されて、影が薄くなってしまったそうですが、そんな「神戸博」の姿を史料から明らかにしていくそうです。
次回は2月19日です。
全10回分の日時、テーマ一覧はこちら、C.A.P.のニュースレター、「caper6月号」のピックアップ記事「Bibliotheque 208主宰、森下明彦インタビュー」はこちらです。

shimoda 01Y3日記
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