2012年11月16日

12/9(日)CAP STUDY 3「ビブリオテーク208.ext〜移動美術資料室がCAPにやって来る!」第7回 リプリント/復刻版特集


facebook pageもあります。
ご予約は電子メールでお願いします。
イベント名とお名前をお知らせ下さい。

Eva Hesse, Datebooks 1964/65 A Facsimile Edition, Yale
University Press, 2006.

CAP STUDY 3
「ビブリオテーク208.ext〜移動美術資料室がCAPにやって来る!」
第7回 リプリント/復刻版特集
【要予約】
2012年12月9日(日)15:00〜18:00
講師:森下明彦(メディア・アーティスト、美術・音楽愛好家)
参加費:¥500
リプリント/復刻版特集

以前このCAPにて、大掛かりな一日だけの美術図書館を開催したことがあります(何度も言及してすみません)。その時に多くの書籍や雑誌、資料とともに、レオナルド・ダ・ヴィンチの『鳥の飛翔に関する手稿』の復刻版を並べて置きました。それをめくっていた友人が、突然、「これは本物ですか?」と声を上げたのです。一瞬私は言葉を失いました。レオナルドの手稿の現物など王侯貴族の所有物という頭しかなかった私は、どう答えて良いか分からず、「まさか!」としか反応出来ませんでした・・・。

オリジナルが入手しにくい書籍や雑誌が、その魅力を損なうことなく、続々復刻されています。統計を取った訳ではありませんが、復刻版が多いのはやはり美術など、文章だけでなく、挿絵や図版が重要となっている分野のものでしょう。これは端的に復刻版の質の問題とも関わります。

復刻版がほぼ現物そっくりというものもあります(この言い方には誤解がありますので、今回の移動資料室でもいくつか、原書と復刻版の両者を比べられるようにしたいです)。中には大きさが縮小されていたり、雑誌などでは何冊かまとめて製本されていたりする場合もあります。ですから、便利であるが、オリジナル視しないこと――これが復刻版と付き合う時の、基本的な配慮でしょう。

気になる点を3つ。第一は復刻版が高価であること。復刻のための高品質印刷が大変であることは理解出来ますが、特にこの国で制作されるものはそうです(出版全般についても同様ですが、海外に販路がないので部数が少ないのが1つの理由でしょう。それでも、古書価格よりは低いので助かるのですが・・・)。次にはその復刻版自体が希書化し、高価になること。とはいえ、復刻版の復刻版が発刊されることはないでしょう。再び、復刻版を作れば良いのですから。3番目に、復刻版の出現とともにオリジナルの価格が安くなることが時々あること。これは原著に対する冒涜になるのではと、危ぶんでいます(復刻版が出たから、より価値が上がると考えたいです)。ちなみにある雑誌の復刻が出た後、そのオリジナルが古書店に出ていたので購入したのですが、何とその復刻に使われた原書でした。復刻が済めば売りに出す――極めて経済的な行為と驚き、かつあきれました。

なお、似ているようで違うのが、新たに版を起こした「新版」。例えば、日本の前衛芸術を引っ張り、今年に大規模な展覧会が開催された、村山知義の『構成派研究』と『現在の芸術と未来の芸術』はそうした形で刊行されました(本の泉社/2002年)。近づきやすくなったのですが、原著の持つ何かが大きく失われた感じがします。また、小説家の文章が全集などに採録されることとの区別も明確にしておきたいと思います(単行本が文庫本になることとも)。あくまでも物質的存在としての本そのものの複製なのです。小説本が復刻されることもありますが、装幀が優れているなど、別な観点が加わってのことと思います。

そうしたものと対極にあるのが、レオナルドの手稿と同じような、手書きのノートやスケッチブックの復刻です。むしろ、これこそ、元は地上に1部しかないものですから、複製化することの意義は計り知れないと言えます。ですから、冒頭に記したエピソードも、こうした手稿の復元に関する問いかけだったかもしれません。


リスト
●未来派:
Fortunato Depero, Depero Futurista, Dinamo-Azari, 1927.(Reprint: Studio Per Editioni Scelte, 1987)
 これはもうこの資料室のいわば定番。アーティストの手掛けた本の面白さ入門用です。
●ダダの雑誌:
291 Nos. 5-6, 1915.  (Reprint: Ronny van de Velde, 1993)
391 1, 391 4, 391 5, 391 6, 391 14, 391 19,  1917-24.  (Reprint:Ronny van de Velde, 1993)
Dada - Mappe Berlin 1920/21. (Reprint: Reinhard Nenzel Verlag,1995)
●構成主義に関わる出版:
ЭлЛисицкий, ПроДваКвадрата, Skythen,
1922. (Reprint: Gerhardt Verlag, 1970/88)
Вещь 1-2, Вещь 3, 1922. (Reprint: Lars Müller, 1994)
В. Маяковскй,  Для голоса, 1923. (Reprint:Walther König, 1973)
Iwan Tschichold, Elementare Typographie, Typographische
Mitteilungen, Sonderheft, 1925/10. (Reprint: Verlag H. Schmidt,1986)
El Lissitzky und Hans Arp, Die Kunstismen, Eugen Rentsch
Verlag, 1925. (Reprint: Arno Press, 1968)
Цирк, 1925.(復刻版:@museum/2004年)
Почта, 1927.(復刻版:@museum/2004年)
Игрушки, 1928.(復刻版:@museum/2004年)
Спецодежда, 1930.(復刻版:@museum/2004年)
Бумага и Ножницы, 1931.(復刻版:@museum/2004年)
●日本の前衛詩:
辻潤編、高橋新吉『ダダイスト新吉の詩』(中央美術社/1923年)
(復刻版:名著刊行会/1970年)
萩原恭次郎『死刑宣告』(長隆舎書店/1925年)(復刻版:名著刊行会/1970年)
平戸廉吉『平戸廉吉詩集』(平戸廉吉詩集刊行会/1931年)(復刻版:日本近代文学館 /1981年)
村野四郎『體操詩集』(アオイ書房/1939年)(復刻版:名著刊行会
/1970年)
編集人:玉村善之助、橋本健吉、野川隆「ゲエ・ギムギガム・プルルル・ギムゲム」(エポック社/1924年6月~1926年1月)(復刻版:不二出版/2007年)
●その他:
鉄道省編纂「汽車時間表 昭和9年12月号」(日本旅行協会〔ジャパン・ツーリスト・ビューロー〕/1934年)(復刻版:詳細不明)
鉄道省編纂「汽車時間表 昭和15年10月号」(日本旅行協会〔ジャパン・ツーリスト・ビューロー〕/1940年)(復刻版:詳細不明)
●ノート類:
レオナルド・ダ・ヴィンチ『鳥の飛翔に関する手稿』(岩波書店/1979年)(Leonardo da Vinci, Il Codice sul Volo degli Uccelli.)
Eva Hesse, Datebooks 1964/65 A Facsimile Edition, YaleUniversity Press, 2006.
●原著と比較してみて下さい:
Hartmann Schedel, Liber chronicarum, A. Koberger, 1493、258葉。
同上の復刻版:Marczell, 1967-70。
宮武外骨「滑稽新聞 肝癪と色気」(第98号/1905〔明治38年〕6月20日、第105号/1905〔明治38年〕12月10日、第107号/1905〔明治39年〕1月12日、第111号/1906〔明治39年〕3月20日、第113号/1906〔明治39年〕4月20日/滑稽新聞社)
「宮武外骨此中にあり : 雑誌集成:6-13」「滑稽新聞 : 完全版」(ゆまに書房/1993~1994年)
●新版:
村山知義『構成派研究』/『現在の芸術と未来の芸術』(本の泉社/2002年)


森下明彦(メディア・アーティスト/美術愛好家)
フリーで美術と映像に関する研究を続けながら、美術資料室(神戸市)の開設公開を準備中。
また、国立国際美術館客員研究員として「中之島映像劇場」という名称の映像上映会を企画。

「caper7月号」のピックアップ記事 「ビブリオテーク208.ext〜移動美術資料室がCAPにやって来る!」今年度の開催に向けて。」はこちら、全10回分の日時、テーマ一覧はこちら、C.A.P.のニュースレター、2011年「caper6月号」のピックアップ記事「Bibliotheque 208主宰、森下明彦インタビュー」はこちらです。
コメントしてください