2014年1月26日

2月のCAPTURE:草むらのテニス・翠のリボン

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「絵を描くとき、赤く塗ればいいのか、青い線を引くのか、自分のできることの中から最良のやり方を判断し、行為し、やがて自らを越えて行こうとすることは、生きること自体と驚くほどよく似ています。だから私には、絵を描くことと、生について考えることとは切っても切り離せません。」
2011年にC.A.P.にやって来た桜井さん。最近またなにかに触発されたようです。


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草むらのテニス・翠のリボン
桜井類(美術家)

2013年の12月31日の明け頃に夢を見ました。初夢でも最後夢でもなく、一歩手前夢です。どういう夢かというと、テニスをする(しようとする)夢です。ある知らない人(男性、高身長、浅黒、白シャツ、ちなみに天才)と何故かテニスをしようとしているのだけれど、お互いの打ったボールが全く返って来ない。それもそのはずで、僕たちがテニスをしているのは、コートもネットもない草ぼうぼうの野っ原だから打球が弾むはずもない(野原、草は腰か胸のあたりまで真っ直ぐ伸び、快晴、空は青、風はなし、周りに建物などの遮蔽物はない)。だからちゃんとしたテニスをしようとするのはもう諦めようということになる。その代わり、ラケットとボールを使って二人で遊べるやり方はないか、いろいろと試してやってみようということになった。テニスのルールややり方をいちど全部チャラにして、手に持ったラケットと、一つのボール、お互いの存在を駆使して可能なあらゆることを、相手と模索しながら遊び出した。なにせ夢の中のことなのでうまくディテールを描写できないのがもどかしいのですが、とにかく、それがとんでもなく面白かったのです。互いの了解と信用ができてくる、その上でルールを作ったり、崩したりしながらひたすら肯定的に遊びたおす。そして、そのプレーの中から、一度もなされたことのない真新しいテニスが立ち上がるのを見た!そのことに感動し、身体中がジーンとしてそれがだんだん顔に上がってきて両目からこぼれようとしたその瞬間に目が覚めたのですが、私にとってそれがアートの夢であることははっきりしていた。



去年は、制作、生活を通して私自身の素朴さや執念深さと向き合った一年でした。そうせざるをえなかったのか、何となくそうなったのかはわかりません。11月23、24日に開催された神戸文化祭で、僕は「オールとナッシング」という2日間(半日×2)砂浜でただ過ごすという出し物をしたのですが、これもある種の極めて個人的な動機から、これしかないと決まった感じがあります。この「オールとナッシング」は文化あるいは文化的であるとは何かということに関しての自分の根本的なスタンスが表れていると感じており、できてとても良かったと思います。できれば来年も同じ催しをやりたいです。ところで一人で海を眺めているときに、大発見がありました(ちなみに2日間ともとてもよい天気で暖かかった)。波が砂浜に打ち寄せて砕けるときにその先端がくるっと内側に丸まるのですが、一瞬そこに翠色の直線がスッと現れて消える。まるで自然のものの色とは思えないような鮮やかさで、かつ深いターコイズグリーンのほっそりとした(リボンのような?)ラインでした。それは少なくとも波を正面に見ている私の前では水平に伸びて(視界の端っこと波の端っこのどちらが長かったかは憶えていない)、波が砕けるとともに消える。体感で一秒もないくらい。初めてそれを発見したときに「ナヌッ!」と目を奪われ、それからあとは釘づけでした。打ち寄せるたびに現れるわけではなく、何かの加減で現れないこともある、計ってはいませんが10回打ち寄せるうちに6回か7回ぐらい、その現れるか現れないかという感じがさらに凝視させる。何といっても珍しくて綺麗。それが僕にとっての秋の暮れの美しき訪れで、とても痺れました。

桜井 類 Sakurai Rui

1981年生まれ
2011京都造形芸術大学大学院博士課程修了

主な展覧会
2011 個展「透明と停止」CAP STUDIO Y3
2012 「Art Court Frontier #10」ARTCOURT Gallery
     「DRAWING LESSONS」Galerie Aube
     「Drawing Exhibition #3 Thinking is Form」CAP STUDIO Y3
2013 「透明な奥のほう」GALLERY wks. CAP STUDIO Y3
     「ALLNIGHT HAPS」9月7日(土)〜30日(月)HAPS オフィス1F

2014年の予定
1/18 (sat)〜2/9 (sun)
「Non-Linear/非線形プロジェクト《What's Next?》」ARTZONE/京都
Takahashi Satoko 03イベント
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